三重県における公民連携の創業・スタートアップ支援最前線
令和7年10月17日・18日、三重県四日市市のインキュベーション施設「ビズ・スクエアよっかいち」を会場に、「せとうちビジネスインキュベーション連絡会」を開催しました。
今回の連絡会では、会場となったビズ・スクエアよっかいちをはじめ、三重県、四日市市、金融機関系シンクタンク、さらに地域で活動するインキュベーションマネジャー(IM)が登壇。それぞれの立場から、三重県におけるスタートアップ・エコシステムの構築や、地域資源を活用した具体的な創業者支援の取り組みが紹介されました。
各機関から報告された、先進的な取り組みの概要をレポートします。
1. ビズ・スクエアよっかいち(民間支援)
柔軟な入居条件: 成長段階の企業を支えるため、入居者の年齢制限や業種の縛りを設けていなません 。
本業特化支援: 運営会社の強みを活かし、入居者に対し電話対応の代行サービスを提供しています 。
BizCafe よっかいち: 2012年から毎月開催する交流イベント 。成功談だけでなく、苦労や失敗の経験談を共有することを重視し、IMが参加者間の信頼関係構築をサポートしています 。
女性起業家支援の団体「wiz」: 男女の起業意識の違いに着目し、2019年に女性専門の支援組織「三重県女性起業家コミュニティwiz:」を設立 。専門家相談の前段階として、女性同士が学び合うコミュニティを形成しています 。
2. 三重県(スタートアップ支援)
三重県は、製造品の出荷額はトップクラスである一方、スタートアップ増加率が低いという課題認識のもと、エコシステム構築を推進しています 。
スタートアッププラットフォーム: 令和5年8月に立ち上げ。行政、大学、先輩企業家、金融機関、VCなど約88機関が連携し、県全体でスタートアップを支援する体制を構築しています 。
県内企業との連携: 大企業だけでなく、新規事業を模索する「県内の中小企業」と県内スタートアップとのマッチング(オープンイノベーション)を特徴としています 。
地域資源の活用: スタートアップの定義として「地域資源(特有の資産や歴史、産業)を活用した事業」を重視 。地域の海洋プラスチックをアップサイクルする事業などに対し、補助金による支援も行っています 。
都市部との連携: 県内での人材養成の限界を補うため、東京・渋谷のインキュベーション施設(渋谷Q's)の会員となり、都市部のスタートアップを誘致する取り組みも開始しています 。
3. 四日市市(行政支援・連携)
県内最多の人口(約30万5千人)を擁する四日市市は、商業と工業が盛んな地域であることを認識し、創業支援を進めています。
- 四日市創業応援組織: 2012年に市、商工会議所、金融機関などが連携して設立。2014年には国の認定を受けた「創業支援等事業計画」を策定し、民間施設であるビズ・スクエアよっかいち(サイネット)も参画しています。
- 多様な支援プログラム: 商工会議所による「創業塾」や「創業カフェ」の開催、市の独自事業である「女性起業家育成支援事業」を実施しています 。
- 若年層への起業教育: 2024年度から四日市商工会議所が中心となり高校生向けの起業家教育プログラムを開始 。2025年度からは夏休みに「高校生創業スクール」を開催し、進路決定前に創業という選択肢に触れる機会を提供しています。
- 新拠点の整備: 既存の地場産業振興センターをリニューアルし、2027年度中のオープンを目指し、新たな産業振興拠点施設の整備計画を進めています。スタートアップ支援や市内事業者と市外スタートアップのマッチング機能などを担う予定です。
4. 百五総研(地域密着・スモールビジネス支援)
百五銀行の関連シンクタンクである百五総合研究所は、三重県最北端の木曽岬町(人口約5,000人)において、人口減少対策として「仕事づくり」を切り口としたローカルスタートアップ支援に深く関与しています。
きそざき・ビジネスカレッジ: 地元経営者が登壇し、特に「失敗談や苦労話」を共有するセミナーを実施。地域外からも参加者を集め、関係人口の創出に貢献しました。
木曽岬創業道場: スモールビジネス創業者(参加者5名)に対し、メンター(6名)が「超手厚く」、半年間にわたり「ひたすら対話」を通じて事業を磨き上げるプログラムです。
持続的な仕組みづくり: これらの取り組みを持続させるため、卒業生らのテストマーケティングの場などを提供する地域商社「木曽岬創生舎」を設立。百五総研も中心メンバーとして引き続き関与しています。
5. 朝日町役場(IM・文化資源活用)
三重県で最も面積が小さい朝日町(人口約1万1千人)では、IM資格を有する役場職員が中心となり、地域の文化資源を活用した独創的なプロジェクトを推進しています。
円形校舎プロジェクト: 全国でも現役で5つのみとされる登録有形文化財「朝日小学校の円形校舎」の保存活用を目指しました。
多様な資金調達と情報発信: ふるさと納税型クラウドファンディングの実施に加え、報道を見た高齢者が役場窓口に直接寄付を持参するなどの反響を呼びました。
地域連携(モノづくり): 集まった資金で、児童が考案したキャラクター「あさひん」の焼き印を作成。これを隣接する川越町のレザークラフト事業者と連携させ、町のお祭りで体験ブースを出し人気を博しました。
古民家活用: 東海道沿いの古民家をリノベーションし、チャレンジショップとして活用する計画では、キリン株式会社の「応援」事業(エールコイン)にも採択されています。
6. ゆめテクノ伊賀(IM・交流と人材育成)
伊賀市に位置する「ゆめテクノ伊賀」は、研究開発、人材育成、インキュベーションの3機能を「交流」によって結びつける拠点です。
大学連携: 施設内に三重大学のサテライト研究室が7つ設置されており、共同研究のマッチング支援を行っています。
IMの役割: 創業者に対し、「ワクワク感」と「気づき」を引き出すことを最重要視し、個別相談を行っています。
ワールドカフェ: 「地域情報カフェ」として、知らない人同士(年齢・業種問わず)が議論するワールドカフェ形式の交流会を開催。参加者は伊賀市内外(奈良、京都、大阪など)からも集まります。
自立的コミュニティの創出: 交流会後のプチミーティングから、参加者たちが自発的にLINEグループでの情報交換やツアー企画を立ち上げるなど、IMの手を離れた活動が生まれています。
若年層育成: 中学生の職場体験学習として、事業計画書の作成体験(「今日からあなたは社長です」)を実施し、将来の起業家精神を育んでいます。
今回の連絡会では、行政(県・市・町)、金融機関、民間施設、大学が、それぞれの強みを活かしながら密接に連携し、スモールビジネスの創出から、地域資源を活用したスタートアップ支援、さらには小中高生といった次世代の人材育成まで、多層的かつ具体的な支援体制を構築している様子が明確に示されました。







